絶妙

ネタばなしをします。

ターニングポイントはすぐそこに。

「飲みにいくのを我慢したら、ここに5千円を入れるんだ。」

そういって山崎くんが指差した先には、"オメガ貯金"というシールの貼られた2リットルペットボトルがあった。

社会人の憧れ、オメガのシーマスター。30万円もするそれを、飲み会を我慢してコツコツ貯めたお金で手に入れようという計画らしい。

2014年8月時点、投入されたお札の山はペットボトルの半分を超えており、20万円以上の財が形成されていた。

 


山崎くんは僕の大学時代の友人である。2人とも留年していて、5年の会というクズのような集まりで知り合った仲だ。

 

ある日、5年の会のメンツで久々に集まろうという話になった。僕、山崎くん、友人A,B,Cで日程を調整したら、奇しくもその日は山崎くんの誕生日。

こりゃあ祝うっきゃない!ということで、山崎くん以外のメンバーでプレゼントを考えた。

考えた結果、僕達のお金で山崎くんに風俗を体験させることにした。堅物の山崎くんをリラックスさせてあげたい僕達なりの愛というやつだ。

 

どうせなら面白そうなお店に行ってもらおうということで、体験先には五反田にある某M性感をチョイス。

「五反田 M性感」で検索をするとスゴいハイセンスな名前のお店が出てくるから、気になる人は調べてみてほしい。

 

 

2014年11月、決行日。

山崎くんとの集合時間は18時だったが、事前にM性感に電話をし、山崎くん名義で19時から120分コースを予約。

目一杯楽しんでもらうため、「今日が誕生日なんです。むちゃくちゃにしてください。」という粋なメッセージを伝えておいた。

これも山崎くんをリラックスさせてあげたい僕達なりの愛というやつだ。

 

 

 

そして迎えた18時。

五反田駅に集合した我々は、駅近くの安い居酒屋へと向かう。

生ビールで乾杯をし、それぞれの近況報告。懐かしいメンツで話が盛り上がるのだけれど、ここに滞在するのは45分間だけだ。

 

18時45分。

「なんかここの料理イマイチだわ。他の店いかね?」と切り出すA。

「俺も思ってた。店かえよ。」と賛成するB。そして、居酒屋を出る流れに。

店を出てからは「たしかこっちの方に安くて美味いホルモン屋が…」と言いながら歩くCについていき、僕たちはラブホテルの前で停止した。

 

「どうしたの?なんでラブホの前で止まったの?」

山崎くんが予想通りのリアクションをしてくれたので、それに答える代わりに僕達はハッピーバースデートゥーユーを歌うことにした。

  

「お前の名前である店を予約しておいた。部屋に入ったらココに電話して部屋番号を伝えてくれ。2時間後にまた会おう。」

歌い終わると同時に山崎くんに2万円を握らせそう伝えると、彼は無言で頷き、ラブホテルへと入っていった。


そして僕たちは近くの居酒屋へ入り、酒を飲んで彼の戦いが終わるのを待つことにしたのである。

 

21時10分

山崎くんから電話がかかってきた。飲んでる店の場所を告げると、ほどなくして彼は現れた。

 

居酒屋に現れた山崎くんの顔はどことなく悲しそうだった。しかし、僕らは敢えてそれに気づかないフリをした。

 

「おつかれ。誕生日おめでとう。じゃあ、どんな感じだったか、感想話してくれる?」

 

僕がそう声をかけると、彼は複雑そうな顔をしながら初風俗の体験談を語りはじめた。

 

曰く、彼の体験はこんなものだったらしい。

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部屋に入ったらまず風俗店に電話をした。

店名は聞かされてなかったので普通の風俗を予想していたのだが、電話口で聞こえた店の名前が異質だったのでなんだか嫌な予感がした。

 

電話をした後、さっき聞いたお店の名前をネットで調べてみたらM性感と出てきた。

風俗なんて初めてなのに、しかもMじゃないのにM性感。誕生日プレゼントだけど全然嬉しくない。

帰ろうかと思ったけどみんなお金出してくれてるしなぁーと考えて、ギリギリ踏みとどまることにした。

 

とりあえずシャワーを浴び、パンツ一丁で嬢を待った。

 

しばらくしたらノックをする音が聞こえたのでドアを開けると、キレイなお姉さんが立っていた。すごくタイプだった。

 

テンションがあがって、嬉々として迎え入れたんだけど、お姉さんめっちゃドライ。

イチャイチャしたかったんだけど、全然ラブラブな感じにさせてくれなかった。「M性感だからそういうのじゃない」らしい。

 

もどかしさを感じていると、「そろそろ始めよっか。」という声と共に、いきなり手錠をかけられた。

続いてアイマスクをつけられ、視界を防がれた。

 

そこから先は地獄だった。

 

アナルをすごく責められた。

なんか棒みたいなのをめっちゃ挿し込まれた。

パンストでこすられた。

お願いしても止めてくれなかった。

男の潮吹きをしてしまった。

 

時間になり、最後にキスをしてくれた時だけお姉さんがすごく優しかった。正直そこだけドキドキしたけど、風俗なんて二度といかない。

 

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僕たちはこの体験談を聞いて喜んだ、というか爆笑した。

本人は喜んでいないけれど、貴重な体験を与えることができたのであれば誕生日プレゼントとしては大成功だ。

 

そこから始まった風俗トークは終電間際まで盛り上がり、山崎くんの誕生日会は大成功で幕を閉じたのである。

 

めでたしめでたし。

 

と、この時はそう思っていた。だが、この話はここで終わらなかった。

 

 

2015年1月。

年明けに山崎くんの家に泊まりにいった僕はある異変に気がついた。

 

山崎くんが大事に貯めていたあのオメガ貯金がなくなっているのである。

正確にいうとオメガ貯金のペットボトルはまだあるのだが、その中身がまるっと空になっている。

 

もうオメガ買ったのかな?そう思って山崎くんを見るが、彼は依然としてスイスミリタリーの腕時計をつけている。

 

これはどういうことだろう。気になったので聞いてみると、彼は信じられないことを話し始めた。

 

20万ほど貯まっていたオメガ貯金を「全部つかってしまった」のだという。

 

何につかったのか尋ねると、返ってきたのは最悪の2文字。

 

驚くべきことに、山崎くんはあの誕生日の夜以来、風俗にハマってしまったのだという。

 

しかも普通の風俗ではない、ハマっている業態はもちろんM性感だ。最初はあんなに嫌がっていたというのに、今ではあの不自由な快感がたまらないのだというものだから恐ろしい。

 

いやはやなんとも、人生のターニングポイントというのはどこに転がっているかわからないものである。

 

 

 

ちなみに最近の山崎くんのオススメは有楽町にある"一見普通のマッサージ店"らしい。

そこであるコースを注文すると奥の個室に案内されて特別なサービスが受けられるんだそうな。

 

ちょっと前まで風俗未経験のヒヨッコだった青年がたった数ヶ月で風俗上級者を飛び越して、ハンター試験みたいな裏風俗にまで手を出しているというのだから驚きだ。

 

ひょっとしたら僕たちはとんでもない風俗モンスターを生み出してしまったのかもしれない。

 

インターネットの向こうには魔物がいる。

僕が中学生だった頃、世の中では"ファイル共有ソフト"というモノが話題になっていた。

 

 "ファイル共有ソフト"とは、ネット上でデータを匿名でやりとりすることができるソフトのことで、それを悪用した人達がデジタル化された著作物のデータ(映画や漫画など)をネット上で違法にアップロード、ダウンロードするようになり、社会的に問題視されていた。 

 

当時は今ほど世の中がインターネット化していなかったので、アナログな世界で守られていた著作権がデジタルによって侵食されるということは大問題だったのだろう。"違法アップロード""違法ダウンロード"という言葉が世の中に出回るようになったのもこの頃のこと。

 

特に有名だったのがWinnyというソフトで、このソフトをつくった金子さんという人は「犯罪を助長するツールをつくった」というレッテルを貼られて、なんと逮捕されてしまった。

後に最高裁で無罪となったわけだが、当時の世の中では仕組みとなるソフトウェアをつくっただけの人を逮捕するようになるほど、"ファイル共有ソフト"による著作物の不正利用が問題となっていたのである。

 

そんな社会問題になっていたファイル共有ソフトに、僕も手を出してみたことがある。

こんなことを書くと違法ダウンロードをしていたんじゃないかと思われるかもしれないが、そこは安心してほしい。著作物に辿り着く前に偽ファイルを掴まされてパソコンがウイルスに感染して頓挫したため、幸いにも罪は犯していない。

 

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当時の僕はパソコンのことなんて何一つわからなかった。なのでまず、書店でファイル共有ソフトの特集本を購入した。

 

本によると、ファイル共有をするにはソフトをインストールするだけでなく、パソコンやネットワークの設定を色々いじる必要があるらしい。

 

なるほど。とても厄介だ。

 

というのも、当時うちにはパソコンが1台しかなく、かつ、それが置いてあるのは父の部屋だったからである。

つまりその設定をするには親が寝静まった深夜に父の部屋に忍び込まなくてはならないということだ。というか、よく考えたら設定できたとしてもファイル共有をする時は毎回深夜に父の部屋に忍び込まなくちゃならないのでかなり面倒である。

 

「ファイル共有したいからパソコン買ってくんない?」と親に頼むわけにもいかないので、しぶしぶ深夜に忍び込んで設定をすることにした。

ないものねだりをしても現実は変わらない。配られたカードで戦うしかないのである。

 

 

特集本を買ったその日から"深夜に父の部屋に忍び込み、パソコンの設定を変更する。"という怪しい生活が始まった。

 

電気をつけるとトイレに起きてきた親に気づかれる危険があるため、作業を行うのは暗闇の中。

灯りの点いた自室で本を読み、設定内容を覚えて父の部屋に向かい、暗闇の中ひたすらパソコンをいじっていく。

 

時には父の使っているパソコンの管理者権限パスワードが必要になるというピンチもあった、父の個人情報からパスワードを推測したり、父がパスワードを打つ様を目に焼き付けることでなんとかこの難所を乗り越えた。

ここまでで本を買ってからだいたい3週間かかったように思う。

 

そんなこんなで、僕はようやくファイル共有の大海原へと漕ぎ出したわけである。

 

 

僕がファイル共有という大海原で見つけようと思っていたのはAとVの組み合わせのアレである。ちなみにオーディオビジュアルではな方だ。

 

検索欄に「エ◯」とか「A◯」とか「巨◯」といった偏差値2みたいなワードをたくさん投げ込み、検索結果に表示された紳士的なタイトルのファイルに対して片っ端からダウンロードのリクエストを行う。

ダウンロードが終わると指定のフォルダにファイルが生成されるとのことなので、フォルダを開いて待機したものである。

 

ズボンを脱いでトランクスを一丁でワクワクしていたが、少し経ってから異変に気づく。おかしい。30分経ってもファイルが1つも出てこない。

 

首をかしげながらWinMXのダウンロード画面を見てみると、ダウンロード完了予定の欄に「ダウンロード完了まで40時間」というメッセージが表示されていた。絶望である。

あと40時間もトランクス一丁でいられるわけがない。親が起きてくる。あと寒い。

 

苦し紛れに複数ファイルをリクエストするのを止めて1つのファイルだけをダウンロードするようにしてみたところ、「ダウンロード完了まで28時間」になった。12時間も短縮されたのは劇的な進歩だが、無慈悲さはあまり変わらない。

つまるところ、我が家のインターネット回線は紳士向け動画をダウンロードするには貧弱過ぎたのである。"The net line of our household was too weak to download SHINSHI MUKE MOVIE."だ。

 

「紳士向け動画ダウンロードしたいからネット回線強くしてくんない?」と親に頼むわけにもいかないので、しぶしぶそのままの回線で辛抱強くダウンロードをすることにした。ないものねだりをしても現実は変わらない。配られたカードで戦うしかないのである。

 

 

"深夜に父の部屋に忍び込み、パソコンの設定を変更する。"という生活は終わりを告げ、ファイル共有を始めたその日から、新しい生活が始まった。

 

新しい生活リズムは"夜中の1時にダウンロードを開始して、5時に起きてダウンロードできているか確認する。ダウンロードが完了していなかったら中断し、翌日の1時からまたダウンロードを開始する。"というものだ。

1日4時間ずつ、1週間かけて、1つのファイルをダウンロードする。手強い獲物を1週間かけて追い詰めていき、最終日の朝5時に、ファイルのダウンロードが完了しているかどうかを確認するのである。

 

ダウンロードが完了していた時の気分は格別だった。早朝に紳士向け動画を見るわけにもいかないので、その時はそっとパソコンを閉じるのだが、学校へ行っている間もニヤニヤが止まらなかった。

 

しかし、その喜びは長くは続かなかった。

というのも、苦労してダウンロードしたファイルたちがことごとくニセモノだったからだ。

 

ファイルをダブルクリックすると「ファイルが破損しています」と表示されたり、ウイルスが仕掛けられていてデスクトップのアイコンが全部女性の胸部になったり、ブラウザが立ち上がってワンクリック詐欺を見せられたり、オッサンとオッサンが愛を育んでいる映像が表示されたり、様々なやり口で絶望を味わわされた。

 

一番嫌だったのが、ホラー系だ。

ファイルを開くとなんかよくわからん車が遠くを走っている映像が映し出されて、あーニセモノか…と思っていたらいきなり手前にゾンビみたいな男が現れてドアップで大声で叫びだしたり。

アンダーアーマー姿の女性が映し出されて、おっ!紳士的なのが始まった!と思ったら突然画面が暗転し、画面いっぱいに血を流した赤い眼の女が表示されたり。とにかくロクな目に合わなかった。

ネット上には悪趣味なヤツがいるもんだと呆れたことを覚えている。

 

 

ところで、このWinMXというソフトにはチャット機能がついており、ファイルをダウンロードしている相手からたまにメッセージがくることがあった。

 

送られてくるメッセージは大抵「俺からダウンロードしてるんだからお前もなんか出せよ」みたいなものや「よろしくお願いします」といった定型の挨拶が多いのだが、そんな中で1人、「○○ダウンロードしたいん?何時間くらいかかりそう?」という親身なメッセージをくれた人がいた。

 

「○時間かかります。朝までダウンロードさせてほしいです。」と返したところ、「おっけー!そんかわり朝まで暇やしチャットしない?」と返ってきた。

なぜ見ず知らずのファイル共有者とチャットをしなきゃならんのだ?と思ったが、紳士向け動画をダウンロードするためこれを快諾。WinMXのチャット機能は使いづらかったので、僕らはYahooメッセンジャーに移動した。

 

 

自己紹介をしたところ、相手はゲンさんという男の大学生ということがわかった。

 

ゲンさんとの会話はとても楽しく、刺激的だった。ゲンさんは僕の知らないことをたくさん知っていて、当時の僕にはそこらのお笑い芸人のネタより、ゲンさんの話の方が面白かったように思う。

 

住んでいるところ、学校の話から始まって、将来の夢、好きな女の子の話、セックスの体験談などなど、初対面の相手とここまで話す?みたいなことまで、ゲンさんとはとにかくたくさん話をした。

 

朝になってもダウンロードが終わらなかったので、翌日も同じ時間に集合して、チャットをしながらダウンロードをさせてもらえることになった。

翌々日も、そのまた翌日も...と約束をとりつけて、僕たちは6日連続で会話をした。最高に楽しい6日間だった。

 

6日目の朝、ふとWinMXを見ると、ゲンさんからのファイルのダウンロードが完了していた。

僕はすかさずメッセンジャーで「ダウンロード終わったみたいです!ありがとうございました!」と送った。ゲンさんは「お、どういたしまして。」と返してくれた後、「また何か機会があったら会話しようぜ。」と言い、トークルームから退出した。

 

 

早朝に紳士向け動画を見るわけにもいかないので、その時はそっとパソコンを閉じた。その日は学校へ行っている間もニヤニヤが止まらなかった。家に帰り夕飯を食べている時も早く紳士向け動画が見たくて夜中が待ち遠しかった。

 

深夜1時。いつものように父の部屋へと忍び込み、パソコンを立ち上げる。そしてWinMXのダウンロードフォルダを開くと、今朝ダウンロードしたファイルがそこにある。

 

僕がダウンロードしたファイルはゲンさんのお墨付きで、彼曰く「コイツはすげえ。コレを見たらコレ以外じゃハッピーエンドできなくなる。」とのことだった。

テンションアゲアゲでティッシュボックスをセットし、僕はゲンさんからもらったファイルをダブルクリックした。

 

プレーヤーが立ち上がり、画面にアンダーアーマー姿の女性が映し出された。

 

んん?

 

お待ちかねの紳士的なのが始まったのだが、なにか違和感がある。

おかしいな、なぜだろう。

あれ?これもしかして、前に見たことあるやつじゃ...

と思った次の瞬間、画面が暗転。画面いっぱいに、血を流した赤い眼の女が映し出された。

 

既に経験済みのホラーだったが、この時はめちゃくちゃビックリした。

100%紳士的なのが来ると信じてキャッチャーミットを構えていたのに、ホラーが来たものだからそりゃビビる。

 「うわぁ!」と叫びながらプレーヤーを終了させた。 

 

おかしい。このファイルはゲンさんからもらったものなのに、なんでこんな映像が表示されるのか。

しかも動画を再生してから、デスクトップのアイコンが全部女性の胸部になっている。

恐る恐るもう一度再生してみたが、表示されたのはやはり同じ映像だった。

 

悲しい事実だが、ゲンさんが僕にくれたのは偽ファイルだったらしい。

 

 

この体験はトラウマだが、僕のインターネットリテラシーを向上させてくれたという点においては、いい教訓である。

 

ネット上でどんなに親密になったとしても、相手の本性なんてものはわからない。

 

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インターネットの向こうには魔物がいる、僕達はそう肝に銘じて生きていくべきなのである。